こんな人にオススメ
・なんかスゴイものが見たい
・100年以上前に、世界で活躍した人を知りたい
眞葛(まくず)ミュージアムとは
眞葛ミュージアムは、神奈川県にある陶磁器の美術館です。
陶磁器と聞くと、「何が良いのか分かりにくい・・・」という感想を持つ人も多いと思います。
かつては僕も同じ感想を持っていましたが、初めて眞葛焼を見たときに
「陶芸って、ここまで表現できるもんなの!?そもそも100年以上前のモノってマジか!」
と衝撃を受けました。
そんな僕の焼き物に対するイメージを一変させた、眞葛焼の魅力を紹介していきます。
眞葛焼(まくずやき)とは
高浮き彫り
高浮き彫りは、立体的に造形物を表現する技法で、「こんなのアリ!?」ってぐらい浮き彫られます。
陶磁器は焼くと大きさが変わりますし、釉薬(色付けするもの)も焼いてみるまでキレイに色が出るかは分かりません。
完璧な計算で造られた高浮き彫りは、他にはない圧倒的なリアリティを表現することに成功します。
万国博覧会へ出品
眞葛焼(高浮き彫り)が1876年のフィラデルフィア万国博覧会に出品されると、「こんなの見たことない!」と世界中から絶賛されます。
その後の万国博覧会でも毎年のように金賞を連発し、眞葛焼の名は不動のものとなりました。
今でも海外の美術館で展示されていることがあり、見つけると嬉しくなります。
(ちなみに写真横のレゴブロックみたいなやつは、眞葛焼にインスパイヤされて製作されたものと説明がありました)
眞葛焼が出来るまで
眞葛焼を創り出したのは、宮川香山(みやがわこうざん)という人物です。
だるい歴史の話になりますが、宮川香山が生きた明治時代は、政府が近代化を進めるために海外の技術を買いまくった時代です。
その支払いのために、薩摩焼(外人が好む金ピカの焼き物)などを大量に輸出していました。
しかし薩摩焼を作るには多くの金が必要であり、「このままでは日本の金が海外に流出してしまう」と考えた宮川香山は、高浮き彫りという新しい技法を生み出したのです。
幻の焼き物へ
宮川香山の名前自体は4代目まで受け継がれますが、初代 宮川香山(1842〜1916年)の高浮き彫りを再現できる後継者は現れませんでした。
しかも窯自体が1945年の横浜大空襲で焼失してしまい、元々輸出用に造っていたこともあって、眞葛焼はほとんど日本に残っていませんでした。
そんな「幻の焼き物」となった眞葛焼を海外から買い戻し、日本で展示しているのが眞葛ミュージアムになります。
ありがたや。
宮川香山(みやがわこうざん)の魅力
続けて、眞葛焼の創設者である宮川香山の魅力を紹介します。
25歳で既に名工
宮川香山は1842年に陶工の息子として生まれました。
若いうちから頭角を現し、25歳の頃には当時の幕府から御所(天皇など)献納の品を依頼されるまでになります。
陶芸家としてのスキルは、この時点でもほぼ完成していたと言われています。
圧倒的なリアリティ
宮川香山は非常に研究熱心で、リアリズムの追究のために自宅に鷹や熊などを飼うほどでした。
(熊って個人で飼えるもんなのか・・・)
とりわけ鷹の表現力は凄まじいものがあり、とても100年以上前には造られたとは思えないエネルギーを放っています。
残されている資料では「焼き上がりが気に入らないと片っ端から割って回るような、非常にこだわりが強い性格」と書かれていますが、納得のクオリティです。
誰にも真似できない表現力
その表現力は現代でも再現することができず、完全にロストテクノロジーとなっています。
テレビ番組の企画で再現しようとしたこともありましたが、「これ、無理じゃね?」と結論付けられていました。
生涯現役
地位も名誉も手にした宮川香山でしたが、生涯に渡り進化を続けます。
40代頃からは釉下彩(色付けするもの)の研究に主軸を置き、晩年には高浮き彫りと釉下彩の技術を合わせた作品も作っています。
75歳で亡くなる直前まで作品を作り続け、まさしく生涯現役の人生を送りました。
そんな晩年の作品も眞葛ミュージアムには展示されていますので必見です。
入館料と所要時間
チケット料金は大人800円です。
所要時間は、小さい美術館なので30分くらいです。
開館日時
土日しか開館していないので注意が必要です。
平日でも、10人以上で2週間前に予約すれば、開けてくれることもあるようです。
アクセス
横浜駅から徒歩で10分ほどです。
独立した建物ではなく、一つのテナントですので見落とさないように注意しましょう。
最後に
宮川香山は僕の一番好きな陶芸家です。
誰よりも陶芸の可能性を信じて、誰よりも作品を鑑賞する人のことを考え抜いた人物なんじゃないかな、と勝手に思っています。
そうでないと、このレベルのものは造れません。
眞葛ミュージアムは、初めて陶芸を見る人にも本当にオススメできる美術館です。
一つのことに人生を捧げた人間だけが到達できる本物の極地を、ぜひ体験してみてください。
関連情報
清水三年坂美術館(京都)
京都にある、明治工芸品を展示している美術館です。
明治工芸の世界には、宮川香山と同じような名工がたくさんいます。
しかし世界最高レベルに優れていたがゆえに、日本に作品が残っておらず知名度も低いことがほとんどです。
この清水三年坂美術館も、館長が海外で「昔の日本にこんなに素晴らしい美術品があったのか!」と感銘を受け、買い戻して設立した美術館になります。
神奈川県からは遠いですが、京都に行くときは訪れてみてください。
清水寺のすぐ近くにあります。